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私的風景の電脳記録
by innerscape
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霧はれて光きたる春

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3月8日から12日までの5日間、大阪市立大学附属病院でアートインスタレーションとして作品を作った。
タイトルは「霧はれて光きたる春」。
かつて埋立地のデザインなどしたことはあったが、これまで自分がアート作品として作った中では最大規模かもしれない。

市大附属病院は3年ほど前からアーティストとして関わらせてもらっていて、小児科外来の壁に作ったワークインプログレスの作品「タングラムランドスケープ」や、6階の中庭で詩人の上田假奈代さんと一緒にした「風のおみく詩」などがあるが、今回はどうしようかと正直悩んだ。

一つにはまず“どの場所を使ってもいい”ということだった。
前回までは「ここでして下さい」と場所を指定された中でのインスタレーションだったので、可能性が限定されることもあるが、その分出来る事も決まりやすかった。
しかし今回は「どこでやりますか?」と言われた。
これは作家としてはとても嬉しい。
信頼されている事の証でもあるからだ。
しかし、その分プレッシャーものしかかってくるのは間違いない。
特に病院という施設は人の生死に関わることが毎日起こる場所で、社会の中でも最も厳しい施設とも言える。
そこで何か一つでも間違いがあって事故でも起こればそれは即座に芸術表現と社会との接点を持つ可能性を閉ざす事につながるのだ。
だからまず、この場所が持つ可能性を探ることから始めた。
アーティストが出来る事はそれぐらいしかないし、それが重要なのだと思った。
誰も想像しなかった扉を開くこと。
一度開かれてしまえば、コロンブスの卵と同じで後は誰かが引き継ぐ事が出来る。
その扉を開くまでがアーティストの本当の役割なのだと思う。

さてよくよく考えてみれば入院経験が無い自分は病院のことをあまりにも知らなさすぎるということに気づき、11月頃から院内のリサーチを始めた。

市大病院は18階建てなのだが、5階までは外来病棟で、6階から上は全て入院病棟になっている。
そして6階から18階までの入院病棟は階ごとにそれぞれの病棟が分かれていて、階が違えば全くコミュニティが違い、普段は会話やコミュニケーションをすることはない。

しかし、一つだけ可能性のある場所があった。
それが6階から18階までの全ての病棟をつなぐ明り取りの吹き抜けだ。
この吹き抜けは人が出る事の出来る場所ではなく、光を取り入れる以外の機能を全く持っていない場所で、普段は誰も見向きもしない空間だ。
しかし、全病棟が面していて、しかも4周ガラス張りになっているので見ようと思えば上下左右の病棟を見渡す事が出来る場所だ。

ここに出来事を起こす事できっと人々が視線を交わしコミュニケーションを図り始めるのではないかと考えた。
しかもここで起こる出来事はきっと圧倒的な出来事でなければならないのだと感じた。
それは圧倒的な風景を目の前にした時に、きっと人は自分が今置かれている立場や利害や役割を忘れて一人の個人へ立ち戻る事が出来ると感じているからだ。

だから、ここに二つの現象をおこした。
それが下から立ち上る濃い霧と、上から降り注ぐ光としてのシャボン玉だった。

結果は、思惑通りだった。
800人が入院するこの病院の人々が医師や看護士や患者という立場を一度忘れて空を見上げ、降り注ぐ光を眺める光景は、作品として自分で意図的に引き起こしておきながら、それは胸を打つ風景になった。
初めて見るはずなのに、どこかで見た事のある風景。
僕らは空から何かが降ってくる風景をどこかで体験した事があるはずなのだ。
今回は音楽もプロデュースし、全館放送で流したのだが、そこでもどこかで聞いた事のあるような記憶に訴えかける音作りを目指した。
入院病棟という閉じた空間でのたった30分の現象だが、そんな時間を持つ事はきっと闘病生活に何かの意味をもたらすはずだと信じている。
病と闘うといいうことは決して身体を治療するだけではないのだと思う。
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治療中の入院病棟で行われているということとで、告知も出来ず多くの皆さんにはお見せ出来ない風景だったが、幸いなことに3月9日付けの毎日新聞夕刊の一面と、4月1日付けの読売新聞の文化面に掲載してもらう事が出来た。
たった5日間の小さな成功事例かもしれないが、人は精神生活をいかに送るのかということは芸術の考えるべき大切なことだし、それは美術館の中だけで閉じこもるべき問題ではないのだと思う。
そのことをまた一つ確信したように思える。

霧はれて光きたる春

病は霧の中を進むように
不安で前が見えず
足下もおぼつかない中
ただじっとしているよりほかないが
降りやまない雨がないように
昇らない陽がないように
霧もいつかははれるだろう
霧がはれた空からは
無数の光が降りそそぎ
その向こうにはたくさんの笑顔がみえるだろう
いつかその日が来ることを信じながら
春が来ることを待つ



このプロジェクトに関わった全ての人々に感謝を込めて
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写真:禁無断転載
by innerscape | 2010-03-12 23:33 | アート

私“flw moon”が日々の生活の中で感じた事を見つめ直し記録します。
心のフィルターを通して見た日々のシーンをひとつづつ電脳に記憶させることで、果たしてどんな風景が見えてくるだろうか・・・?

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