flw moon innerscape
S | M | T | W | T | F | S |
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
31 |
原子力発電について勅使河原博士の見解
「原子力発電所の建設に関して、これを推進すべきか、それとも。その反対か……、勅使河原博士のご意見をいただきたいのですが…..」
「意見はありません」勅使河原潤はそっけなく答えた。「一般的なイエス・ノーを答える事は不可能です。それは、時と場合によって、また、話す相手によっても異なります」
「あるときは賛成されて、あるときは反対される、という意味でしょうか?」
「そのとおりです」
「どうして、原子力発電所の建設に関して、節操が必要なのですか?いつでもどんなときでも正しい事ってあるのでしょうか? それから、世間から批判されるって、何ですか? それが何か僕に関係するような事態なんでしょうか?」
「いえ…..、その…….、どうか、お気を悪くなさらないで下さい」
「気を悪くなどしていません。そんなに評価していません。 よろしいですか。簡単に、客観的な事実だけを述べましょう。 原子力発電は、もし、それがうまく機能していれば、火力発電のように大気を汚さないし、水力発電のように自然破壊をしない、とても理想的な発電方法です。 現在の技術ではこれ以上のものは望めません。このクリーンな発電システムを、長期にわたって維持・管理することができれば、たとえば、自動車を全部、電気駆動にしたり、太陽電池を大量に作って利用することもできる。 小型エンジンによる排気ガスもかなり減らすことができるでしょう。電気自動車を動かす電気、太陽電池を清算する電気を、火力発電で賄っていては、大気が汚れる事には変わりがない。 意味がないのです。 地熱発電とか、風力発電とか、波浪発電とかは、まったく問題外です。 さて、しかし、一方では、原子力が、まだ完全に制御できない危険性を有していることも否定出来ません。 短い歴史の中で既に幾つもの失敗があり、事故が起こりました。 安全な管理と保守、廃棄物の隔離などが、どこまで完璧に行えるものなのか、まだよく把握されていない。 これが現状です。 見切り発車している、と言う人もいれば、実験をしなくては、技術的な進歩も望めない、と言う人もいるでしょう。 原子力発電所に反対する人だって、大量の電気を使っていますし、電気で作られる製品を使って生きている。 地球の自然を守ろう、と叫んでいる一方で、クーラーの利いた部屋で暮らしている。医療にも、社会福祉にも、エネルギィが必要なのです。 もし、それらの電気を得るのに原子力を使わないのなら、今の倍以上の火力発電によって、大気を汚染し、環境を破壊しなくてはなりません。 もちろん、その燃料でさえ、いつかは枯渇するでしょう。 これが、現状なのです。 これらすべてののことを考えに入れても、僕には、イエスかノーかの判断はできません。 たとえ、絶対安全な原子力の管理方法が確立しても、それが五十年後にも完璧に機能している、という保証はない。 僕の生きているうちは大丈夫でも、五十年後、百年後には、極めて致命的な問題となって、そのときの、あるいは、さらに未来の人たちの生活を脅かすかもしれないのです。 それをですよ…..、どうして、僕が、今、少ない情報だけで、簡単に賛成だ、反対だと言えるでしょうか。 それが正しいことなのか、間違っていることなのか、誰が知っているでしょう? 何年も何年も、大勢の研究者が、その問題に取り組んでいるのです。新しい方法が見つかれば、新しい問題が発覚する。 世界中で、繰り返し議論されている。 いいですか? とても重要な問題なのです。 貴方がもし、この重要性を認識しているのなら、メニューを選ぶように、簡単に、イエスかノーかなどと人にきいたりはしないでしょう。もしご関心があるのでしたら、どうか、お願いですから、答を出さないで下さい。」
(「そして二人だけになった」/森博嗣/1999年)
「意見はありません」勅使河原潤はそっけなく答えた。「一般的なイエス・ノーを答える事は不可能です。それは、時と場合によって、また、話す相手によっても異なります」
「あるときは賛成されて、あるときは反対される、という意味でしょうか?」
「そのとおりです」
「どうして、原子力発電所の建設に関して、節操が必要なのですか?いつでもどんなときでも正しい事ってあるのでしょうか? それから、世間から批判されるって、何ですか? それが何か僕に関係するような事態なんでしょうか?」
「いえ…..、その…….、どうか、お気を悪くなさらないで下さい」
「気を悪くなどしていません。そんなに評価していません。 よろしいですか。簡単に、客観的な事実だけを述べましょう。 原子力発電は、もし、それがうまく機能していれば、火力発電のように大気を汚さないし、水力発電のように自然破壊をしない、とても理想的な発電方法です。 現在の技術ではこれ以上のものは望めません。このクリーンな発電システムを、長期にわたって維持・管理することができれば、たとえば、自動車を全部、電気駆動にしたり、太陽電池を大量に作って利用することもできる。 小型エンジンによる排気ガスもかなり減らすことができるでしょう。電気自動車を動かす電気、太陽電池を清算する電気を、火力発電で賄っていては、大気が汚れる事には変わりがない。 意味がないのです。 地熱発電とか、風力発電とか、波浪発電とかは、まったく問題外です。 さて、しかし、一方では、原子力が、まだ完全に制御できない危険性を有していることも否定出来ません。 短い歴史の中で既に幾つもの失敗があり、事故が起こりました。 安全な管理と保守、廃棄物の隔離などが、どこまで完璧に行えるものなのか、まだよく把握されていない。 これが現状です。 見切り発車している、と言う人もいれば、実験をしなくては、技術的な進歩も望めない、と言う人もいるでしょう。 原子力発電所に反対する人だって、大量の電気を使っていますし、電気で作られる製品を使って生きている。 地球の自然を守ろう、と叫んでいる一方で、クーラーの利いた部屋で暮らしている。医療にも、社会福祉にも、エネルギィが必要なのです。 もし、それらの電気を得るのに原子力を使わないのなら、今の倍以上の火力発電によって、大気を汚染し、環境を破壊しなくてはなりません。 もちろん、その燃料でさえ、いつかは枯渇するでしょう。 これが、現状なのです。 これらすべてののことを考えに入れても、僕には、イエスかノーかの判断はできません。 たとえ、絶対安全な原子力の管理方法が確立しても、それが五十年後にも完璧に機能している、という保証はない。 僕の生きているうちは大丈夫でも、五十年後、百年後には、極めて致命的な問題となって、そのときの、あるいは、さらに未来の人たちの生活を脅かすかもしれないのです。 それをですよ…..、どうして、僕が、今、少ない情報だけで、簡単に賛成だ、反対だと言えるでしょうか。 それが正しいことなのか、間違っていることなのか、誰が知っているでしょう? 何年も何年も、大勢の研究者が、その問題に取り組んでいるのです。新しい方法が見つかれば、新しい問題が発覚する。 世界中で、繰り返し議論されている。 いいですか? とても重要な問題なのです。 貴方がもし、この重要性を認識しているのなら、メニューを選ぶように、簡単に、イエスかノーかなどと人にきいたりはしないでしょう。もしご関心があるのでしたら、どうか、お願いですから、答を出さないで下さい。」
(「そして二人だけになった」/森博嗣/1999年)
by innerscape
| 2011-05-06 19:29
| 崩壊のロジック
私“flw moon”が日々の生活の中で感じた事を見つめ直し記録します。
心のフィルターを通して見た日々のシーンをひとつづつ電脳に記憶させることで、果たしてどんな風景が見えてくるだろうか・・・?
心のフィルターを通して見た日々のシーンをひとつづつ電脳に記憶させることで、果たしてどんな風景が見えてくるだろうか・・・?
カテゴリ
全体インフォメーション
日常
アート
コミュニケーションデザイン
ランドスケープデザイン
プロダクトデザイン
映画と演劇
観光ターム
情報デザインと風景
崩壊のロジック
景観
装置と風景
音楽
自然について
出来事の風景
キネスケープ
私的詩
マゾヒスティックランドスケープ
覚書
未来の自分との対話
旅
居場所の獲得
極東EX
身体技法
現象デザイン
聖地創造論
以前の記事
2018年 06月2017年 02月
2015年 12月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 06月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 12月
2005年 11月
2005年 10月
2005年 09月
2005年 08月
2005年 07月
2005年 06月
2005年 05月
2005年 04月
2005年 03月