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私的風景の電脳記録
by innerscape
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原子力発電について勅使河原博士の見解

「原子力発電所の建設に関して、これを推進すべきか、それとも。その反対か……、勅使河原博士のご意見をいただきたいのですが…..」
「意見はありません」勅使河原潤はそっけなく答えた。「一般的なイエス・ノーを答える事は不可能です。それは、時と場合によって、また、話す相手によっても異なります」
「あるときは賛成されて、あるときは反対される、という意味でしょうか?」
「そのとおりです」
「どうして、原子力発電所の建設に関して、節操が必要なのですか?いつでもどんなときでも正しい事ってあるのでしょうか? それから、世間から批判されるって、何ですか? それが何か僕に関係するような事態なんでしょうか?」
「いえ…..、その…….、どうか、お気を悪くなさらないで下さい」
「気を悪くなどしていません。そんなに評価していません。 よろしいですか。簡単に、客観的な事実だけを述べましょう。 原子力発電は、もし、それがうまく機能していれば、火力発電のように大気を汚さないし、水力発電のように自然破壊をしない、とても理想的な発電方法です。 現在の技術ではこれ以上のものは望めません。このクリーンな発電システムを、長期にわたって維持・管理することができれば、たとえば、自動車を全部、電気駆動にしたり、太陽電池を大量に作って利用することもできる。 小型エンジンによる排気ガスもかなり減らすことができるでしょう。電気自動車を動かす電気、太陽電池を清算する電気を、火力発電で賄っていては、大気が汚れる事には変わりがない。 意味がないのです。 地熱発電とか、風力発電とか、波浪発電とかは、まったく問題外です。 さて、しかし、一方では、原子力が、まだ完全に制御できない危険性を有していることも否定出来ません。 短い歴史の中で既に幾つもの失敗があり、事故が起こりました。 安全な管理と保守、廃棄物の隔離などが、どこまで完璧に行えるものなのか、まだよく把握されていない。 これが現状です。 見切り発車している、と言う人もいれば、実験をしなくては、技術的な進歩も望めない、と言う人もいるでしょう。 原子力発電所に反対する人だって、大量の電気を使っていますし、電気で作られる製品を使って生きている。 地球の自然を守ろう、と叫んでいる一方で、クーラーの利いた部屋で暮らしている。医療にも、社会福祉にも、エネルギィが必要なのです。 もし、それらの電気を得るのに原子力を使わないのなら、今の倍以上の火力発電によって、大気を汚染し、環境を破壊しなくてはなりません。 もちろん、その燃料でさえ、いつかは枯渇するでしょう。 これが、現状なのです。 これらすべてののことを考えに入れても、僕には、イエスかノーかの判断はできません。 たとえ、絶対安全な原子力の管理方法が確立しても、それが五十年後にも完璧に機能している、という保証はない。 僕の生きているうちは大丈夫でも、五十年後、百年後には、極めて致命的な問題となって、そのときの、あるいは、さらに未来の人たちの生活を脅かすかもしれないのです。 それをですよ…..、どうして、僕が、今、少ない情報だけで、簡単に賛成だ、反対だと言えるでしょうか。 それが正しいことなのか、間違っていることなのか、誰が知っているでしょう? 何年も何年も、大勢の研究者が、その問題に取り組んでいるのです。新しい方法が見つかれば、新しい問題が発覚する。 世界中で、繰り返し議論されている。 いいですか? とても重要な問題なのです。 貴方がもし、この重要性を認識しているのなら、メニューを選ぶように、簡単に、イエスかノーかなどと人にきいたりはしないでしょう。もしご関心があるのでしたら、どうか、お願いですから、答を出さないで下さい。」

(「そして二人だけになった」/森博嗣/1999年)
by innerscape | 2011-05-06 19:29 | 崩壊のロジック

私“flw moon”が日々の生活の中で感じた事を見つめ直し記録します。
心のフィルターを通して見た日々のシーンをひとつづつ電脳に記憶させることで、果たしてどんな風景が見えてくるだろうか・・・?

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