flw moon innerscape
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強く美しく誇らしく
以前からずっと会いたいと思っていた、エリカ・バドゥに遂に会ってきた。
5年前に一度来日した際には彼女に会うことが出来なかったので今度こそは彼女の歌声を堪能しようと楽しみにしていたのだが、突然鳴り響く雷に激しい雨、4月だというのにやけに冷たい風。
何だか不吉な天気だなと思っていたら案の定、彼女のコンディションが悪いことが知らされた。
先日の愛知万博でMISIAと一緒におこなった野外ライブの際に風邪をひいてしまったらしい。
予定より一時間ほど遅れてスタートしたライブアクトにもなかなか彼女の姿は現れず、少しオーディエンスがいらつきはじめた中、ようやく彼女がステージに姿を現した・・・。
エリカ・バドゥは1997年にアルバム『BADUIZM』でデビューした黒人のシンガーである。
80年代の黒人音楽が電子楽器に偏っていたことへの反動から、90年代の初頭あたりに生楽器のグルーブが再評価され広がったアシッドジャズ/レアグルーブの流れ。そして同時に台頭してきたヒップホップ、クラブカルチャーへの流れが見事に融合し始めたのが90年代半ばのネオクラシックソウル、あるいはオーガニックソウルと呼ばれる音楽である。
そうしたムーブメントの中、アルバム『BROWN SUGAR』で華々しいデビューを果たした天才ディアンジェロと並んで登場したのがこのエリカ・バドゥだった。
ソウルな歌声、ジャズのメロディ、ヒップホップのグルーブを持った彼女の音楽を今では継承するアーティストは多くいるものの、彼女のセンシティブでエキゾチックな表現に今でも僕は魅了されている。
皆が不安気に見守る中、彼女はノドを痛めかすれた声で歌い出した。
エンターテイナーはステージに立つ以上、寸分の甘えも許されない悲哀を抱えている。
ベストではないコンディション。
多くの観客の期待のまなざし。
このライブのために動いた数多くの人と巨額の資本。
これらを全て一人で受け止めなければならない。
そうしたプレッシャーを跳ね除けて輝くことが出来るのが真のプロフェッショナルだということを彼女は今夜教えてくれた。
ノドをかばいながらうたう痛々しい彼女の姿も感動的だったが、途中涙を流しながら"I can't stand my throat pain..."というフレーズを歌の中に織り込む演出や、自分が出せなくなってしまったハイノートのフレーズを観客に求める機転の速さは見事で、彼女の魅力は決して歌声というところだけにあるわけではないことを改めて知った。
決してベストな状態で行われた演奏ではなかったが、素晴らしいステージだったと思う。
ライブとは決して音楽を聴くだけではないのだ。
そのアーティストの表情や息づかい、眼差しや動き、パワー、空気感を共有する場なのである。
僕達はエリカ・バドゥの“歌”を聴きに来たはずだったのだが、エリカ・バドゥという“人”の強さと美しさを感じて帰ってきた。
すさまじいプレッシャーの中、強く美しく誇らしく輝く彼女。
しかしその背後に並々ならぬ覚悟と勇気と器量を持つことがその輝きを支えているということの意味を、教えられた夜だった。
by innerscape
| 2005-04-03 14:48
| 音楽
私“flw moon”が日々の生活の中で感じた事を見つめ直し記録します。
心のフィルターを通して見た日々のシーンをひとつづつ電脳に記憶させることで、果たしてどんな風景が見えてくるだろうか・・・?
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